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ネットワークアナライザ超入門 - 測定原理と使い方

ネットワークアナライザはオシロスコープ・スペクトラムアナライザと並ぶ高周波エンジニアに必須の測定器の一つです。

しかしオシロとは違い情報がとても少なく、使い方を調べてもメーカーの難しい説明資料程度しか見つからないため、私も初めて使用するときはかなり苦労しました。

そこで今回はネットワークアナライザの原理とその使い方に関して、初心者の方にも理解できるよう、できるだけ分かり易く説明をしていきたいと思います。

 

オシロ、スペアナとの違い

ネットワークアナライザ(ネットアナ)の説明の前に同じ高周波測定器のオシロスコープ(オシロ)スペクトラムアナライザ(スペアナ)の役割に関しておさらいしておきましょう。

オシロとスペアナを簡単に説明すると以下のような感じです。

  • オシロスコープは電気信号の時間変化を画面上に表示するためのもの
  • スペクトラムアナライザは電気信号に含まれる周波数成分を解析するためのもの

例えば測定する高周波信号が10MHzと30MHzの信号を合成したものだった場合、オシロスコープでは以下のように信号の時間変化の波形が測定されます。 

オシロスコープによる測定波形例

オシロスコープによる測定波形例


これと同じ信号をスペクトラムアナライザに入力すると以下のように、その高周波信号の持っている周波数成分の強度が測定されます。

スペアナによる測定波形例

スペアナによる測定波形例

(この波形だと10MHzと30MHzの成分がどちらも0dBmの強度を持ち、ほかの成分は-100dBmの強度であることが分かります。実際にはノイズやスプリアスと呼ばれる高調波が観測されたりするのでこんなに綺麗なことはないですが。)


ちなみにdBmは電力を表す単位で、以下のように定義されます。

  • 0 dBm = 1 mW

10 dB毎に10倍電力が変わります。

ということでオシロもスペアナも電気信号の特性を測定するためのものでした。
それに対してネットアナは被測定回路(DUT)を通過、反射する高周波信号の周波数特性を測定するのが目的の測定器です。

ネットアナでは測定したいDUTに対し、高周波信号の周波数を連続的に変化させながら入力し、DUTの出力から出てきた信号またはDUTから反射された信号を測定します。

 
たとえば10MHzの高周波信号に対して共振するRLC共振回路を製作したとします。
実際には抵抗もコンデンサもコイルも定格スペックに対して誤差があります。
またMHzやGHzクラスになると回路のパターンの長さや浮遊容量で共振周波数や位相も変化します

そこでネットアナを用いて周波数を9~11MHzで変化させながら、RLC共振回路の出力と反射を見れば、正確な共振周波数を確認することができます。

ネットアナによる測定波形例 

ネットアナによる測定波形例

(先ほどと同様あくまでこれは例の波形で、実際はこんなに綺麗に共振周波数以外が反射するということはないです。)

ネットアナは色々な用途に使用することができますが、例としては以下のようなものがあります。

  • 共振回路やバンドパスフィルタの周波数特性の確認を行う。
  • アンプがどの程度の周波数まで定格のゲインを維持できるか確認する。
  • 高周波回路の定在波比(透過と反射の割合)を確認する。
  • 回路のインピーダンス整合の確認を行う。
  • ケーブルの反射個所の特定を行う。

このように被測定回路(DUT)の周波数特性を測ることができるのがネットアナの特徴です。

ネットワークアナライザの原理

ネットアナで測定を行うには、その原理や特性を知ることが重要です。

1990年以前はスカラネットワークアナライザと呼ばれる機器が使用されていました。
これは別に用意したシグナルジェネレータの信号をDUTに入れて、その出力をスカラネットワークアナライザで受けるというものでした。
先ほどのように透過・反射波の測定を行う場合これで十分ですが、位相測定ができないという欠点があります。

それに対して現代はベクトルネットワークアナライザが主に使用されます。
ベクトルネットアナは送信と受信が一体となっており、位相測定が可能になっているものです。

ベクトルネットアナの内部構造を以下に示します。

ネットワークアナライザの内部構造

ネットワークアナライザの内部構造

ネットワークアナライザの内部ではどのような処理が行われているのでしょうか?

ここからは高周波回路の重要な特性であるSパラメータを測定する際に、ベクトルネットアナの内部でどのような処理を行っているのかを記載していきます。

ネットアナの内部処理

  1. SG(シグナルジェネレータ)から出た信号を2つに分岐し、片方を基準受信部1に入れます。
  2. もう一つの信号はDC(方向性結合器)を通りポート1から出力され、DUTに入力されます。方向性結合器は入力端子に入力された信号を出力端子から出して、出力信号からの反射信号を別のポートから取り出すというものです。詳しくはこの記事などが参考になります。http://t-sato.in.coocan.jp/terms/directional-coupler.html
  3. DUTで反射された信号は測定受信部①へ、通過した信号は測定受信部②で受けられます。
  4. 伝送信号と反射信号を基準信号部①で受けた基準信号と比較して位相を検出します。
  5. 基準信号との差からDUTの反射係数(S11)と通過係数(S21)を演算します。

 
上記で1サイクルが完了です。

設定値の範囲で周波数を変化させながらこのサイクルを繰り返し測定します。

次に図のスイッチを反対方向に切り替えることで逆方向特性を測定し、逆方向の反射電力(S22)、伝送係数(S12)が求まります。

これで通過・反射電力特性を示すSパラメータが測定されました。

Sパラメータは以下のように表すことができます。 

  • {S11=\displaystyle\frac{反射波電圧Vr}{入射波電圧Vi}(順方向の反射係数)}
  • {S21=\displaystyle\frac{進行波電圧Vt}{入射波電圧Vi}(順方向の伝送係数)}
  • {S22=\displaystyle\frac{反射波電圧Vr}{入射波電圧Vi}(逆方向の反射係数)}
  • {S12=\displaystyle\frac{進行波電圧Vt}{入射波電圧Vi}(逆方向の伝送係数)}

 被測定回路の重要なパラメータである定在波比反射減衰量インピーダンス整合といった情報はこのSパラメータから求められます。

 

ネットワークアナライザの使い方 

さて以上でネットアナの大まかな原理は説明ができました。

ネットアナは多様な使い方が可能で、ミキサーのように入力がいくつもあるものだと先ほどの2端子対測定ではなく、4端子、6端子対測定を行うこともありますが、ケーブルやアンプ、コネクタ、等多くのDUTは2端子測定で十分です。

(というか高級機以外のネットアナは2ポートしかないものが多いです。)

ここからは2ポートのネットアナを使用して、伝送Sパラメータを測定する方法を記載していきます。

機種によって設定方法は違いますが大体の流れは同じと考えていただいて大丈夫です。
 

①ネットワークアナライザの校正

ネットアナを使用する際は毎回校正を行います。
ネットアナのポートからDUT間のケーブルやコネクタ等により信号の減衰や位相シフトが起こり、それらがSパラメータの測定精度を低下させるからです。
(1GHzの信号だと波長が30cmなのでケーブル長で位相が簡単に変わります)

まずは先ほどの図のネットアナのポート1とポート2の間にDUTの代わりに校正キットを接続します。(校正キットはネットアナに標準装備orオプションで購入可能です。)
そして構成の種類(通常はNormalCAL等でOK)を選んでボタンを押せば自動で構成が終了します。

②ネットワークアナライザのセットアップ

校正が終わったら、ポート1と2の間にDUTを接続します。

次に測定画面を表示します。

測定画面にも以下のような色々な種類があります。

  • 振幅系・・・横軸に周波数、縦軸に強度(dBm)
  • 位相系・・・横軸に周波数、縦軸に位相(deg)
  • ベクトル系・・・横軸周波数、縦軸に反射率(-1.0~1.0)
  • スミスチャート・・・複素インピーダンスを示す円形の図表

まずはポピュラーな最初のグラフで示したような振幅系の画面を表示させましょう。

横軸に周波数、縦軸にdB単位の振幅が表示され、測定量としてS21が表示されていることを確認します。

③掃引範囲の設定

ポート1から出力される測定用信号(スティミュラス信号とも呼ばれます)の周波数範囲を設定します。

先ほどの例だと下限周波数を9MHz、上限周波数を11MHzとします。

④測定とデータ評価

設定が終わったら測定に入ります。
測定自体はスタートボタンを一つ押すだけで自動で周波数を変えながらスキャンをして結果を出してくれます。

さらに最近のネットアナは測定データの表示や解析を行うツールが揃っています。
例えば測定波形からSパラメータ、パワー、位相等の情報の解析を行ったり、スミスチャートでインピーダンスの周波数応答を表示するといったことも可能です。

終わりに

以上、ネットワークアナライザの原理と使い方を初心者目線で解説してみました。

私自身も最新のネットアナの持つ多彩な機能の内の一部しか使いこなせていない状況ですが、この記事でいまいち使用方法が分かっておられない方々に何となくでもネットアナのことが分かってもらえたなら幸いです。


宜しければ回路・高周波関係の以下の記事もご覧ください♪

jazzfr.hatenablog.com

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