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音楽スタジオのアンプでの感電の原因と対策

先日、音楽スタジオで別々のアンプにつないだ2本のギターを交換する際に病院に搬送される程大きな感電事故が起きた、というツイートが話題になりました。

このツイートのリプライで原因に関して議論がされていますが、基本的には漏電ということで間違いなさそうです。 

またこの件に関して、下記のブログ記事で検証がされています。

 
この記事では2つのアンプのコンセントをそれぞれ逆向きに差したときに2つのアンプ筐体に電位差が発生していることを検証しています。
 
そもそもなぜコンセントを逆にすると感電が起こるのでしょうか?
まずはコンセントからのAC100Vに関して知っておく必要がありますね。
図のようにコンセントは左側が長く、右側が短くなっています。

パナソニック(Panasonic)?コスモワイド埋込トリプルコンセント WTP13033WKP 【純正パッケージ品】

左側はN(ニュートラル)といい0Vで固定されています。
それに対して右側はL(ライン)といい、-141V~+141Vで毎秒50または60の周期で振れています。

ニュートラル・ライン電圧

コンセントからの電圧の最大値141Vの実効値を取ったものがAC100Vです。
では次にコンセントからギターアンプ、ギターまでの流れを簡易的な回路図にしてみます。

アンプ回路


ギターアンプの回路は複雑で、機種によっても変わりますが基本的には図のような回路になります。近年の日本製アンプだとAC100Vラインに直接コンデンサが入っていることはありませんが、アースをとることが前提の海外製品だとコンデンサが入っている場合があります。(古いアンプや海外製のアンプだとグランドスイッチといってAC100Vとアースの間のコンデンサをライン側とニュートラル側で切り替えられるものもあります。)
 
コンセントからのAC100Vはトランスで任意の電圧に変圧され、整流されて、アンプ部でギターから入力された電圧を増幅し、スピーカーを鳴らします。
 
コンセントを逆に差すと、下の図のような状態になります。

アンプ回路-感電


コンセントを逆に差してもアンプとしては正常に動作しますが、筐体をアースに接続していないと、図のようにコンデンサを介してアンプ筐体に電圧がかかり、シールド線の外部導体とギターの弦を通して人体に電圧がかかることがあります。
その状態でアースにつながった他のアンプの筐体やギター・マイク等に触れると人体に電流が流れて感電します。
 
実際にはコンデンサを介してAC100Vがかかっているのでほとんど電流は流れません。
簡単にシミュレーションをしてみましょう。
AC100Vが0.01uFのコンデンサと人体を介してアースに落ちていると考えます。人体抵抗は濡れているときや乾いた時で大きく変わりますが、少し汗で湿った程度の1000Ωとしましょう。

人体抵抗とAC100V

AC100V感電時のグラフ

 

最大値で大体0.4mAの電流が流れます。
1mAが人の検知できる最低電流なので、この程度だと普通は検知できません。(触れた瞬間に少しビリっと感じるかも)
コンデンサの容量が大きいほど多く電流が流れ、コンデンサの容量が1uFだと35mAの電流が流れ、人体に重篤な障害を及ぼす可能性がありますがそこまでのコンデンサが入っているとは考えにくいです。(アンプをアースに繋いだ瞬間に漏電ブレーカーが落ちる。)
 
またコンセントからのAC100Vラインにコンデンサが入っているのではなく、トランスで変圧後のラインにコンデンサが入っている場合も多いです。

ギターアンプ感電

冒頭に紹介させていただいたブログ記事で2つのアンプ間にAC50V程度の電圧がかかっていたのはこの可能性が高いと思います。(コンデンサで分圧していることが原因かもしれませんが)
 
なんにせよ、コンセントを逆に差して使われるのは日本では当たり前のことで、逆向きに差した機器に触って病院送りになるほどの感電が起きるのは通常では考えにくいです。
 
今回は何らかの原因で通常以上の漏電が生じたこと、例えば以下のような状況が考えられます。
  • アンプを激しく動かしたり自分で修理を行った際に、AC100Vラインの配線が外れたり、導電性のごみが筐体とAC100Vとの間に入って漏電する場合
  • 雨の日に屋外で使用していて漏電する場合
  • 配線やコンデンサ等のパーツが劣化していて筐体へ通常以上の電流が流れる場合
 
最初のように完全にAC100Vが漏電していたら筐体がアースに落ちた瞬間にブレーカーが落ちたりヒューズが飛んだりするので少し考えにくいです。
今回は3つ目の可能性が高くて、ブレーカーやヒューズが反応しない程度にパーツ(コンデンサの可能性が高い)が劣化していて通常以上の電流が流れたのではないかと思います。
 
最大の対策はアースへ落としてしまうことで、ちゃんとアースに落せていれば感電することはまずありません。人体の抵抗よりアース線の方が遥かに抵抗が低く、電流がすべてアースに流れるからです。

アンプ-アース接続


とはいえ皆さんご存知の通り、日本ではアースのついていない図のような2口コンセントが主流で、そもそもアースをとれないことのほうが多いです。
2台のアンプの筐体(アース端子)をワニ口クリップでつなげば、アンプ間の電位差はなくなってギターを交換するときに感電することはなくなります。しかしこれでは両方のアンプの筐体に電圧がかかるだけなので、実質的には改善されていません。例えばこの状態でアースにつながったスタジオのドアと触れれば感電します。(ドアがアースに落ちているのなら、ドアにアースすればいいですが、スタジオによるのでケースバイケースです。)
 
 アースに繋げない場合はアンプ筐体の電位を検電器で調べるのが最善でしょう。 アンプ筐体が金属ではない場合はジャック部分などの導電性のある部分を測ってください。

HIOKI(日置電機) 3481 検電器

HIOKI(日置電機) 3481 検電器

 

 

しかしアマチュアのギタリスト全員に検電器を持ち込んでもらうのは難しいことです。スタジオ所有のアンプに関してはオーナーがアースに接続するなど適切に管理を行って、使用者に勝手に配線を変えないよう張り紙をするといった対策を日頃から行うことが重要です。

以上、完全に対策するのは難しい部分もあるのですが、多くの方にスタジオでの感電に関して興味をお持ちいただき、少しビリビリ来るなどおかしい点を発見したら直ぐにオーナーに連絡をして対応してもらうことで、今後の感電事故が減っていくのではないかと思います。
 
私の感電経験について書いた記事もありますのでよければ参考にしてみて下さい。