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国際リニアコライダー(ILC)計画の概要とその社会的意義

国際リニアコライダー(ILC)計画の日本への誘致合戦が佳境を迎えています。
私は専門家ではありませんが、放射線や物理のことに関しては少し覚えがありますので、今回はILCに関してその概要と社会的意義に関して解説してみます。
 

ILCの概要

ILC(International Linear Collider)は電子を加速する直線加速器と、陽電子を加速する直線加速器の2本を用いて、2種類の素粒子(電子と陽電子)を正面衝突させてその時に発生する凄まじいエネルギーの素粒子反応を観測するための装置です。
 
そしてその反応で大量に生成されるヒッグス粒子の性質を調べることがILCの目的です。
 

ビッグバンの再現

138.2億年前に宇宙は超高エネルギー密度の状態から始まり、それがどんどん膨張して拡散していく形で作られました。
これがいわゆるビッグバンです。
 
ビッグバンではどういうことが起きたのでしょうか?
 
ハワイのマウナケア山の頂上にある世界最大の望遠鏡「すばる望遠鏡」は130億光年先の銀河を観測することができます。
1光年は光が1年に進む速さであり、宇宙は光の速さで膨張していったことから、この望遠鏡で130億年前の宇宙の様子を見ることができます。
 
しかしそれ以上先の宇宙は余りにも暗く、どれだけ性能を良くしても宇宙の最果てまで見ることはできません。
 
そこでビッグバンを再現しようとするのがILCです。
この装置では2つの超高エネルギーの粒子を正面衝突させることで、250GeVという超高エネルギー密度状態を生み出すことができます。
これはビッグバンが起こってから1兆分の1秒の宇宙のエネルギー密度と同等です。
 
ビッグバンが起こった直後の宇宙ではすべての粒子は光の速さで動いていました。
そして宇宙が125GeVのエネルギーまで冷えたときに、ヒッグス粒子が他の粒子にまとわりつき、粒子に質量を与え、落ち着いた粒子同士が結合していき、元素ができて、そして星ができました。
 
これがビッグバンとヒッグス粒子の関係です。
 

LHCとの違い

ご存知の方も多いと思いますが、ヒッグス粒子はスイスとフランスの国境にある加速器LHC(Large Hadron Collider)により発見され、発見したグループがノーベル賞を受賞しています。
 
これにより標準理論で予言されていた素粒子がすべて見つかりましたので、ILCは必要ないようにも思えます。
 
両者の最大の違いは加速器が円形であるか、直線状であるかです。
 
LHCは円形の加速器で、電子よりも1840倍重い陽子を加速させて、ILCよりも32倍エネルギーの高い8000GeVまで加速し、正面衝突させます。
円形にして何兆回と電子を回して繰り返し加速することで高エネルギーにできることがメリットですがデメリットもあります。
陽子は素粒子ではなく、2個のアップクオークと1個のダウンクオークで構成される複合粒子であるため、衝突時にとても色々な反応が起こるためヒッグス粒子を観測することは至難の業です。
 
それに対して、ILCは直線の加速器で電子を加速させます。
なぜ円形にしないのかというと、電子は曲がった時にエネルギーを放出してしまう性質があるからです。
(ちなみにそのエネルギーを利用する加速器(Spring8等)も活躍しています。)
 
直線加速器では何度も加速をすることができないため、ILCでは20kmというとても長い距離が必要になります。
(ちなみに山手線1周で約35km)
 
しかしそれにより純粋な素粒子同士の衝突現象を観測することが可能になり、大量のヒッグス粒子の観測が可能になるといわれています。
 
LHCではヒッグス粒子らしきものが見つかったというだけで、その性質はほとんど分かっていません。
またヒッグス粒子は標準理論の中で唯一見つかっていなかった粒子ですが、この性質を調べることで標準理論で説明できない数多くの物理現象も発見されることが期待されています。
 
その中には超大統一理論に到達するための超対称性、余剰次元の存在、さらには暗黒物質の発見というものまで含まれます。
 

ILCの社会的意義

ILCは当初複数の国が誘致を進めていましたが、現在の候補地は日本の岩手県北上山地で一本化されています。
 
その背景としては加速器先進国の日本にお願いしたい、そしてこの建設費用を賄えるのは日本だけだという面があるようです。
 
ILCの建設費はおよそ8000億円と言われています。
その半分は外国に担ってもらう計画(要望?)となっていますが、果たしてそれだけの費用を拠出する価値はあるのでしょうか?
 
日本はこれまでに素粒子の研究分野で幾つもノーベル章を受章してきました。
 
 
これらの成果は大型の装置を用いて出されたものが多いですが、日本の場合は海外に比べて圧倒的に研究者も科学研究費も少なく、個人のアイデアと実力で勝ち取った部分が大きいです。
 
しかしこの国際競争の中で今後もノーベル賞級の成果を残すことは非常に難しいです。
 
ILCは長年研究されてきた標準理論完成に近づける最も有力な装置であることは明白です。ノーベル賞級の成果も高確率で期待できますので、経済負担が軽ければすぐにでも建設すべきでしょう。
 
しかし有名大学の教授でも年間1億円も研究費を集められる人はほとんどいない現状で、8000億円もあれば何百、何千の有力な研究が進められることは確かです。
 
そこで本筋ではないのですが、ILCの経済効果試算を行うのがとても重要になるわけです。
 
ILCの建設には10年間必要で年間400億円程度の建設費用が必要となります。
 
しかしILCができることで常時2000人の研究者が岩手に移住し、研究を行い、さらにその家族や運営に関わる企業、衣住食のあらゆる店舗もできて、まさに一つの町が作られることになります。
 
 
その経済効果は文科省の試算で2兆6千億円、岩手県ILC推進協議会の試算で5兆7千億円となっています。
 
ちなみに東京オリンピックの経済負担が数兆円(ソチオリンピックで4兆円強)と言われています。
当然その分経済効果も数兆から数十兆円だと言われていますが、オリンピックは誘致成功の2013年間から7年間の建設等のハードとソフトの効果+2週間の会期中に限られた効果です。
 
ILCは建設で10年、そしてその後何十年と続く研究に伴い、多くの優秀な外国人が日本に集うことで、これからの日本の科学技術の中心として存在感を放つでしょう。
 
ILCの意義は研究に加えこの経済効果で、これが費用負担に対して釣り合っているのかが争点となっています。
 
物理の専門会の中でも、ILCを最優先課題とすべきかは意見が割れているところで経済効果も本当にどの程度になるのか精査が必要でしょう。
 
私は細かいところまで分かりませんので専門家に任せるしかありませんが、その状況は逐一チェックしていきたいと思っています。
 

終わりに

ILCは国際社会からの要望もあり、2018年内に建設するか否かが決定されることになっています。
 
この大規模で日本の科学技術の行く末を担う装置の現状に対し、一般への周知が全く足りていないと感じこの記事を書いてみました。
 
私はILCの推進派でも反対派でもありませんが、この記事がどなたかのILCの現状とその社会的意義を考えていただくきっかけになれば幸いと思っております。

 

日本発宇宙行き「国際リニアコライダー」 (KS科学一般書)

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